ハニートラップにご用心
TRAP6 聖なる夜

季節は十二月に移ろい、日本列島を大寒波が襲った。関東地方も寒波の影響を受けて寒い日が続き、ついに初雪を観測した。

前日に降っていた雨が凍りいた歩道の上に粉雪がうっすらと積もり、道行く人が足を滑らせる。そして、私も例には漏れずに朝の通勤途中でカバンをすっ飛ばしてひっくり返った。


会社の正面口の自動ドアを前に、冷気に晒されて赤くなった鼻をすすりながら、コートに積もった雪を払い落とす。
フードを取ればそこにも雪が乗っていたらしくドサドサと音を立てて雪の塊が落ちていく。先にフードを取れば良かったとため息をついて、髪の毛先が濡れてしまったことを憂う。

早く暖房のついた暖かいオフィスに行こうと思い、足早に会社に踏み入れるとブーツのヒール部分に張り付いていた雪が半端に溶けて、床を滑らせた。出勤する前からボロボロになりながら受付嬢に社員証を見せてエレベーターに向かう。今日は朝から災難続きだ。


冷えきった指先が徐々に温もりを取り戻し始めた頃、ようやく自分の所属のオフィスがある階に到着した。

土田さんが用事あると言って先に家を出たので、そろそろオフィスは暖まっている頃だろうと期待で胸を膨らませながら電気の付いたその広い部屋を目指した。


「承知しました。はい、準備はほとんどできています。あとは仕事の引き継ぎを少しするくらいです」


扉のノブに手を掛けたところで、土田さんが誰かと話してる声が聞こえてきて手を止めた。土田さん一人分の声しか聞こえないから、電話だろう。邪魔しちゃいけないと思って電話が終わるまで待つことにした。

「失礼します」と土田さんの声が聞こえてから数秒置いて、私はオフィスの扉を押し開けた。


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