悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
しかし、正式に求婚されたわけではないので、まだ変更の余地はある……と思いたい。

彼の妻になりたくないわ……。


今日の外出のおかげで、苦手意識はだいぶ薄らいだものの、私との性格の違いはより強く感じる結果となった。

自分を斬りつけた暗殺未遂犯にまで心を砕くその優しさは、私には眩しすぎて逃げたくなる。

私はやられたらやり返さねば気がすまない性分なのだ。犯人を許すことなど、できやしない。

綺麗な心を持つ彼のもとに、こんな私が嫁いでいいものなのか……結婚生活はきっとすれ違いばかりの気がしてしまう。


花冠を作ったときに、『願わくば、俺の色に染まってほしい』と彼は言ったが、それは無理というものだ。

レオン様のもとに嫁いで、不可能なことを求められ続ければ私は苦しみ、変わらない私を近くで見ている彼も、嫌になってくるのではないだろうか……。


三頭の馬の蹄と、風を切る音だけが聞こえる無言の間が続いていた。

考えに沈んでいた私は、しばらくしてから口を開き、「誰にも秘密を漏らさないと誓います」とだけ答えて、その話を終わらせた。

花嫁候補の最有力者という重荷を下ろしたかった。

王太子妃を狙う貴族令嬢は、他にたくさんいるもの。

レオン様と同じ、優しく清らかな心の娘を探してほしい。

そう願う私の耳に、「国政を動かすより難しいな」とため息まじりに呟く、彼の独り言が聞こえていた。

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