イジワル外科医の熱愛ロマンス
軽く自己嫌悪に沈みながら、文献のタイトルが書かれたメモとスマホを手に医局を出た。
階段を駆け下り、医学部棟から外に足を踏み出すと、小春日和の暖かな日射しが降ってきた。
眩しさに一瞬目を細めてから、レンガ畳の道をのんびり歩く。


こういった頼まれごとで、キャンパス内を歩くことは結構ある。
この広いキャンパスでは、だいたいどこに行くにも五分から十分は歩くことになる。


雨の日とか、夏場の炎天下とか、冬の寒い日とかは、結構大変だし億劫になることもあるけれど、今日はポカポカお散歩日和。
こういう日なら何度でも往復したくなる。
私も現金なものだ。


いつもよりゆっくり歩を進めながら、道の両端に咲いているたんぽぽを眺め、青い空にぽっかり浮かんだ白い雲を見上げた。
時折頬をくすぐる柔らかいそよ風が心地よく、私の気分も少し上向いてくる。


とりあえず……祐がいるから医局を辞めるとか、短絡的に考えるのはやめよう。
私は男の人に頼ることなく一生独りで生きていく為に働き始めたのだ。
この程度で簡単に辞めるなんて考えてはいけない。


自分にそう言い聞かせ、思わず手にギュッと力を込めた。
そうしてスマホを握り締めたことに気付き、私はそっと手を胸の高さに持ち上げた。
< 52 / 249 >

この作品をシェア

pagetop