イジワル外科医の熱愛ロマンス
オーケストラ演奏が始まってしまえば、私のモヤモヤはすぐに吹っ飛んだ。
二階のバルコニーにあるボックスシートの最前列で、私はシートに浅く腰かけ、背筋を伸ばして演奏に聞き入った。


私には、祐と同じくピアノの経験しかないけど、たくさんの楽器が競演するオーケストラは大好きだ。
私の席の真正面に、バイオリンのコンマスが見える。
舞台を横から大きく見渡せる、特等席だ。


前半の交響曲第三番の演奏が終わり、休憩時間を挟んで第五が始まると、第一楽章の主題部分から、柵に両手を突いて身を乗り出してしまった。


「おい。ここから身を乗り出すなんて、バカか」


落下を心配されるほど大きく前に出たわけじゃないのに、隣から祐が小声で私を叱責する。
それでも興奮していたことにハッとして、肩越しに祐を振り返る。
肩を竦めて、浮きかけていた腰を慌ててシートに戻した。


ボックスシートはペア仕様になっていて、今このバルコニー席には祐と私しかいない。
一階席を見下ろし、二階席からは大きな柱に阻まれていて、周りからは視界に入り辛い席だ。
そのせいもあり、私はついつい演奏に熱中してしまい、身も心ものめり込んでしまっていた。
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