中島くんの憂鬱


僕の席は、真ん中の1番うしろ。


磯野は窓際の真ん中。


花沢さんは、廊下の1番まえ。


ただ花沢さんは、恋愛第一人者女子みたく、丸めたメモを磯野に回すこともしなければ、意味深長なアイコンタクトを送ることもない。


だから磯野が好きになったんだ。


だから僕も__嫌いじゃない。


ただぼんやりと、外を眺める。


外を眺める振りをして、磯野を見ていた。


こんなに磯野を意識するなんて、あったろうか?


磯野を見ていることを悟られたくないことを意識している自分がいた。


そんなことに気づくのは、この世で自分しか居ないというのに。


自分にはもう、気づかれている。


バレているんだ。


急に磯野が立ち上がった。


先生に当てられて、前に出ていく。


また少し背が伸びた。


誰も気づかないミリ単位だ。いつも一緒に居るからこそ分かる。髪だってかなり伸びた。そろそろバリカンしないと、先輩たちに怒られる。


黒板に向かって、数式を書き込んでいく。


僕はチラリと、花沢さんを見た。


顔を上げて、磯野を見ている。


男のくせに、意外と字が綺麗な磯野。


男のくせに、磯野と指が綺麗な磯野。


男のくせに、答えに悩むと足を組む磯野。


ねぇ、花沢さん。君はいったいいくつの磯野を知ってる?


ちょっとばかり鼻高々だった僕のその鼻は、答えを書き終わって振り返り、花沢さんに微笑み掛けた磯野によって、ぽっきり折られた。


いや、きっと微笑み返したであろう花沢さんによって、へし折られたんだ。




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