炭酸アンチヒーロー
◆ ◆ ◆
「ヒロってアレだ、ポーカーフェイスなようで実は結構わかりやすい」
にやにや笑いで悠介にそんなことを言われ、思わず眉を寄せる。
「そんなん言うの、たぶんおまえだけだって」
「そーかぁ? いや、んなことないはず」
会話の途中、集合をかける主将の声が聞こえた。すぐに駆け足でベンチの方へと向かいながらも、小声の会話は途切れない。
「だっておまえ、機嫌悪いときとかまるわかりだし。ただでさえもともと目つき悪いんだからさ、もうちっと気ぃ使えよー」
「うるせー、俺だって別に好き好んでつり目なわけじゃねぇよ」
「とか言って、後輩を指導するとき最大限その威圧感利用するくせに」
茶化す悠介を、無言のひと睨みで黙らせる。まあ、こいつの発言に否定はできないけど。
再び前を向きつつも、あのとき小動物みたいな目で自分を見上げていた蓮見のことを思い出した。
……やっぱり蓮見も、俺の目つき悪いとか思ってんのかな。
そもそも今まであんまりしゃべったことがなかったから、蓮見が俺に対してどういうイメージを持ってるかなんて、さっぱりわかんねーんだけど。
まあ、そんなんこれから知っていけばいいし、もしくは変えていけばいい。
『つ、辻くんってひどい人だ……』
小さく頼りない、あのときつぶやいた蓮見の言葉が、頭の中によみがえる。
そして彼女にかけたのと同じセリフを、もう一度声に出さず繰り返した。
──ああ、俺はひどい奴だよ。
あいつは失恋した。余計なことに気を使う必要はなくなった。
もう、遠慮はしない。