たった一度のモテ期なら。
そうだ、小林くんと映画と言えば。

「こないだの映画、ミキちゃんマコちゃん来れなかったんだよ。小林くんと2人になっちゃって緊張した」

「ミキマコ?」

「うん、もともと確かミキちゃんが見たがってた気がするのに、勝手に先に見る感じになっちゃって」

ひとしきりぶつぶつ言ってみてから、こちらをまじまじと見つめる西山に気づいた。居心地が悪く、なに、と聞く。

「悪い、影森の勘の鈍さを忘れてたなと思って。あいつミキマコなんて最初から誘ってないだろ……影森的に、コバってどう?」

「どうって?」

西山は私の質問には答えなかった。肘をついて脚を組んだ姿勢のまま、わかるだろって顔で首を傾げてくる。

その態度にざくっと身体のどこかが痛んで、つい顔をしかめた。

「いい人だと思うけど」

「いい人止まり?」

「よく、知らないし」

「よく知ってる奴としか付き合えなかったら、恋愛なんて始まらないだろ」

「……西山はそうかもしれないけど」

口ごもる私に、小さなため息が返ってくる。

「さっさと彼氏作れよ。いい奴だよ、あいつ」

なんで西山に彼氏作れなんて言われなくちゃいけないの。そう言い返すべきところなのに、何故だかうまく声が出せなかった。

無言をどう受け取ったのか、少しまじめな声で西山が聞いてくる。

「まさか富樫課長とか、言わないよな?」

そこはさすがにムッとして答える。

「言われてるほど悪い人じゃないよ、紳士的だし。よく知らないで噂とかするの、どうかと思う」

ちょっと言葉に詰まった西山に、「ありがとう、あとはもう少し自分でやってみるね」と言って私は経理課に帰った。

手伝ってもらったのにあの態度はなかったかな。そう思ったけど、笑って対応するのは何故だかちょっと無理だった。


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