たった一度のモテ期なら。
だったらなんでキスした?って聞かれても、俺にもわからないんだって。手を出すつもりなんかなかった。

陰口叩かれて涙目になって、でも「西山には関係ない」とか言ってくるあいつと言い合ってて、気づいたら壁に押し付けてた。

いつもと違う、女っぽい熱っぽい目で見てくるくせに富樫とか原とかの名前を出されて。

俺の前でそんな顔して他の奴の話とかするなよ。

って、最悪だ。彼女でもなんでもないのに勝手に嫉妬して強引に迫って、怒られても嫌われても仕方ない。

しかも社内でゴタゴタするのは面倒だって言ってるのは俺だ。意味不明にも程があるだろう。




頭ではそう思って謝りながらも、走って逃げられたことにはダメージを受けていた。気になってる子にそこまで嫌がられた経験がないんだなって自分を振り返る。

そしてそのまま避けられている。

でも逃げられたら追いたくなるのが男の習性なのか、俺は影森に直接話しかけようと機会をうかがった。

二課を出るところをやっと捕まえて話をしようとした俺に、影森は「なかったことにして」と言ってきた。考えたくないというようなことも言われた。

なかったこと。そうだよな、それが一番いい。影森と俺がうまくいくわけない。

ここで俺が強引に口説いても、嫉妬心に駆られて結局振られる構図は目に浮かぶ。


わかったっていいながら。でも富樫課長は本当に辞めとけって言いそうになって、さすがに我慢した。

言う資格なんてないのはわかっていて、でも頼むから。あんな遊び慣れた男にひっかかるなよ、お前らしくない。

「社内で恋愛する気なんかないから、安心して。傷ついたりしないから」

目を伏せたまま影森はそう言った。いつも勘が鈍いくせに、俺が何を言いそうかはわかってたようだ。

お前が傷つかないようになんて言い訳だってことはわかってないんだよな。でもなかったことにするから、笑っててくれいつも通りに。


< 57 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop