たった一度のモテ期なら。
女として意識しなければ、影森はどこかずれてて見てて飽きない小動物みたいなものだった。

例えば、なぜか俺をチロルチョコファンだと思いこんでいる。割と好きだけど、あいつが思ってるほどじゃない。今さら機会をなくして言ってはないが。

見たことない味のがあったの!と嬉しそうに幾つか置いていってくれたりするので、隣の席の先輩にはからかわれる。

「あれは影森さんなりのアピールなのかな」

「だったらまだいいんですけど、なんかのおまじないらしいですよ。前に酔っ払って言ってました」

「おまじない?」

「俺にチロルチョコを食わせた翌日は運がいいそうですよ」

先輩にはバカ受けだった。

「なんかかわいいよな。お前狙いじゃなさそうなら誘ってみようかな」

「彼氏持ちですけどね」

「なんだよ、そうかぁ」

彼氏持ちとは言っても影森はほとんど何も話さない。それでも遠距離のくせに安定感があり、うまく行ってるかという問いにはいつも微笑んで『ふつう』と答える感じだ。

原ちゃんはずっと影森を気に入ってたが、望みはないと諦めてもいるようだった。外で彼女作れって俺も言って「お前みたいに作ろうと思って作れるもんじゃねえ」と怒られていた。

そんな影森がいつの間にか別れていたっていうのは軽い衝撃で、他に好きな人ができたんだってと平然としてるところが影森らしいといえばらしかった。

嫉妬深い男とか苦手だろうな、あいつは。

その後コバの誘いに嬉しそうに乗ってきて、だったら付き合えばって思ったのは嘘じゃない。さっさと彼氏作って、俺に見えないところで勝手に恋愛しててくれって思った。


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