カフェの人々
バイトの大学生

 
 雨が降ると傷が痛むなんてまるで年寄りみたいだ。

 僕はまだ十八だと言うのに。

 朝の七時半から八時半くらいまで、出勤前に立ち寄る人たちでカフェは混み合う。

 それが過ぎると昼まではゆっくりとした時間が流れ、ランチタイムが近づくとまた賑わい始める。

 遅刻しそうなのか駅へ向かって走るスーツを着た若い男が窓の外に見えた。

 みぞおちがキュッとなる。

「走りてぇ」

 誰にも聞こえないように呟いた。

 僕はマラソンの選手だった。

 過去形だけど。

 そこまで有望な選手ってわけじゃなかったが、でも僕は真剣だった。

 走ることは僕の全てだった。



 あの事故さえなければ。



 
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