復讐劇は苦い恋の味
金曜日の夜、店内にいて私の様子を窺っていたかのように言い当てた朋子に、それこそなにも言えなくなる。

押し黙り珈琲をチビチビと飲んでいると、朋子は深いため息を漏らした。


「図星なわけだ。……別に彼がどんなことに悩んで苦しんできたって、美空には関係ないじゃない。今は立派な人間に成長していたとしても、あんたにしたことは事実なんだからさ。……どんな理由であれ、人を傷つけていいはずなんてないからね」


「……もちろんだよ」

なにより君嶋くんは私のこと忘れているのだから。

金曜日の夜、心のどこかで彼が私だと気づくかもしれないって思ってた。

いくら名字が変わったとはいえ、下の名前は同じだし痩せたと言っても多少は面影があると思うし。

それなのに全然だった。君嶋くんは病院で医療事務員として働く常盤美空だと思っていると思う。

「正直私ね、金曜日の夜……打ち明けようかと思ったの」

「えっ?」

驚く朋子に胸の内を明かした。

「喉元まで出かかったけど、言えなかった。……ううん、言いたくなかったのかもしれない。私だって気づいていない彼に自分から打ち明けたくなかった」

「……そっか」
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