全て美味しく頂きます。
「し、仕方がないでしょ、時間なかったんだからさ。そのかわりに…」

 あからさまに顔をしかめる彼に言い訳しながら、私は袋をごそごそと探り当てた。

「ほら!」
「わっ、冷たっ」

 せめてもの反撃。袋の中から取り出したビールを頬にくっ付けてやると、彼は思い切り仰け反った。

「何するんだよっ,この女は。
 ___酔わせて襲うなよ?意外に酒癖悪いからな,長谷川」

「襲うかっ。ビールの数本くらいじゃ酔いません。ささ,入った入った」


 制作時間 十数分。


 カン。
 
 「「お疲れさん。カンパーーイ」」


 250ml缶で乾杯し、芳ばしく焼けたオニギリにかぶり付く。
 途端、彼の顔が驚きに変わった。

「うまッ!何これ美味いよっ」

 ふふふ。私はこの時を待っていた。

「にひっ。スゴイでしょ?
 柚子の皮が入ってるの。おかーさんの手作りなんだよ」

「へえ~…オフクロの味ってやつ?」

「うん。我が家の味さ」

「ん~、いいね。芳ばしいミソの焦げ目の中に柑橘のかおりが口いっぱいに広がって…」

「やだ、なにそれ。グルメれぽ?」
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