全て美味しく頂きます。
「あああ、アナタ。
 祥善寺…しょうぜんじ…君?」

「いかにも」

 至極真面目な顔つきで頷いているこの男、間違いない。

 我が支店の若手のホープ、法人担当で同い年の祥善寺承太郎(しょうぜんじじょうたろう)君…だ。


 私は,この地方都市では一番大きなシティバンクに勤めている、ごくフツーの女の子。

 配属された時からずっと同じ、街なかの支店に勤めている。

 とはいっても、勤続5年といえばかなりのベテラン,女の子というにはそろそろ憚られるお年頃たが。

 で、今。
 スッパ(ダカ)で仁王立ちしてるこの男、祥善寺はこの春、別の支店からやってきた。
 同期入行だから何度か飲んだこともあり,そこそこ知った仲ではあるのだが、さすがにこの状況は…
 
 はたと我に返った私は、慌ててぎゅっと目を瞑(つむ)った。

「と,とにかく前くらい隠しなさいよ!
 芸人さんだって銀のトレイで隠してるでしょーっ」

「ああ,そうか。悪いな。
 それよりもどうすんだ,出るのか,出ないのか。
 早くしないとあと10分で延長料金が発生するんだが」

「えんちょ…うおっ!」
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