全て美味しく頂きます。
 何だか軽く落ち込んで、パタンと卓に顔を伏せた私。

 すぐ近くにある鍋が……熱い。

 と、頭上で、ため息とともに祥善寺の声がした。


「俺…オマエがモテなかった理由が分かった気がする」
「え?」

「余計な一言が多すぎるのと、ものすごーく鈍いせいだ」

「何それ、どういう意味……あーっ!しまった」
「ど、どうした!?」

 勢いよく土鍋の蓋を上げた私は、中を覗いて愕然とした。

「やっぱり…煮すぎた」
「あ~~…」

 その夜は、ちょっと煮えすぎのスキヤキと、冷たいビールでまた乾杯。

 盛り上がって、コタツで眠ってしまった私が翌朝目覚めると、右上がりの斜め文字で

『おいしかったです』

 の律儀なメモ書きが残してあって___
 

 私はかなり、あったかい気持ちになった。
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