いい店にいい酒、隣客は愉快。

こう楽しい夜は久しぶりだ。私はどちらかというと酒には強い方でそのうえ長い。それなのに今夜はこんなに酔ってしまった。

気がつけばほろ酔いでふわふわと浮くような感覚がして来た。そろそろ潮時か。そうは思えども、次また会えるのかすらわからない隣との別れが惜しく、タクシーを頼むタイミングをもう何度も逃している。

隣もだいぶいい具合だ。それもそのはず、出会ってからこの男はずっと私の倍の早さでグラスを空けていたのだから、当然だ。

とうに日付も変わり、郊外に住む私の最寄駅へ向かう最終電車の時刻が迫っていた。

もちろんこの電車を逃したとしても、朝まで時間を潰すことなど容易なことだ。すこし痛いが、自宅までのタクシー代だってなんとかなる。

しかし、男性と飲んでいる時に終電を逃すと言うのに少し抵抗を感じ、また悩むのである。

「あれ、もしかして我が姫は時計を気にしてるの?」

急に静かになった私に、彼が首を傾げ問いかけた。まさか帰るの?とでも言いたげだ。何故かここで帰れば負けのような気がして、私はとっさに、

「いいえ猫さん。明日は休みですから」

と、答え、お酒をもう一杯頼んだ。

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