マスターは手際よく酒を作り、男に差し出す。ついでに私も最後にと選んだ酒を頼み、揃ったところでグラスを合わせた。

「お疲れ。」

「お疲れ様です。」

くいっと一口飲む。最近飲めるようになったラムの香りが口いっぱいに広がり鼻を抜ける。香りのいいものは酒に限らず好きだ。内側から綺麗なれる気がする。

「女の人って、愚痴を肴にするひとが多いと思ってた。」

突然だったので返事が遅れた。

「いや、仕事の話…悩みの種って言ったほうがいいかな?」

彼は酒から遅れて出されたナッツを手に取った。

「俺、もしあんたがなんでもべらべら喋るような人だったら帰ってたと思うよ。」

そしてそれを口へ運び、併せて楽しむように酒を含む。

「あぁ、さっきの問いですか。」

「そう。俺の中の小さい賭けです。実は今日は飲むかどうか迷ってたから、いい女がいたら飲もうと思ってたりして。」

「お上手ですね。でも、初対面の人に仕事の愚痴なんて、とても聞かせられないじゃないですか。」

「それができない人もいるってことだよ。」

ほんとのところ、なんて偉そうな物言いをする男なんだろうと思ったりもしたが、むしろ面白く思えてきた。


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