【超短編 23】 ユカタノ日
ユカタノ日
 浴衣を着るのも久しぶりだ。
 子供の頃は花火大会やお祭りのたびに着ていたものだが、親よりも友達と出掛けることが多くなってから着なくなっていた気がする。
 先日、駅前のデパートへ職場用の適当な服を買いに出掛けた。デパートの中は買い物客があまりいない。
美容院に勤めている私はそれに慣れてしまったが、始めの頃は人の少ない所で買い物をするのが嫌でしかたなかった。手を持て余している店員は必ず声をかけてくるし、同じフロアを3周もしようものなら顔をしっかりと覚えられている。
 職業柄か性格なのか休みの日まで知らない人とおしゃべりするのは億劫だった。
 慣れてしまうとフロアを何周しようが話しかけられようが関係ない。近づく店員は少し角度を変えるだけで近づかなくなることがわかったし、話しかけられても造り笑顔をしなければすぐに離れていく。そもそも学生の頃より要領が良くなったので、同じフロアを行ったり来たりしなくなった。昔はどうしてあんなに時間がかかったのだろうかと勝手なことを考えた時期もあった。
3階の着物服売り場を通りかかると、着物を着せられたマネキンの並んでいる横に筆字で
『7月7日は、浴衣の日』
と書かれた看板を見つけた。
 私は一人、ほおっと声をあげそのまま売り場へ吸い込まれるように入っていき、気が付くと壁際にかけられたSALE品から黒に牡丹の模様が描かれた割とシックな浴衣を購入していた。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop