君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
願いは父の敷いたレールから手を伸ばしても到底届かない所にあった。だから、レールは壊すことにした。


壊す力を手に入れるためには、事業において名実共にトップに立たなくては話にならない。


父の前では無能な若輩を装いながら、影では独自に動いた。


父とは違う人脈を築き、経営判断に父の意見を仰ぐのを止める。少しずつ幹部の中に協力者を増やしていき、腹心と言える部下ができて確かな立場と力を得た。


彼女とのごく当たり前の関係性を築くため、回り道のように仕事に没頭する日々。樫月家の檻を破壊するまで、あと少し。


「俺が柚葉に相応しいかどうかなど、どうでもいいことだ」



今の俺が不足なら、相応しくなるまでだ。




「傲慢だな。彼女の事情もお構い無しか」


険のある表情になった杉崎が俺の言葉をどう受け取ったか知らないが、説明してやる必要もない。


「それならあんたは、彼女のダンスを見たことがあるか?社交界のようなお上品なヤツじゃなくて、彼女の本気の躍りを」


「答える必要はない」


ダンス、と聞いて胸が疼いた。見ていない。俺は柚葉のダンスを真っ直ぐに見る自信が無かった。


「本当はダンスを止めて欲しいんでしょう?

ねえ、ピアノを止めたくなかった樫月さんが、彼女のダンスを応援してやれないのはどういう理屈?

かつて自分がされたのと同じように、彼女の道を折る気なの?」


「黙れ」
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