君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「それとも、将来を嘱望された世界的ピアニストの自分と
、十把一絡げのオーディションに落ちるような彼女とは立場が違うと思ってる?」


「そんなことは無い……!

お前、さっきから何故俺の過去に拘ってるんだ」


「……ショパンコンクールの、最終選考でのスタンディング・オベーションを覚えてるだろ。

あの演奏は今でも伝説だ。あんたが優勝しなかったからって怒り狂って審査員辞めた人までいた。

俺はあんたの演奏で感動した分だけ、余計に彼女への仕打ちが許せないんだよ。

人の心の分からない奴なんかの演奏に、胸を打たれたのかって。」


「俺の何を調べたのか知らないが、お前の許しは必要ない」


「……まともに愛する気もないくせに、花でも摘むような気軽さで彼女の人生を狂わせるな。

彼女は俺に助けを求めてきたんだ。あんたのやってることは最低だ。」


杉崎が見せた携帯の画面には、柚葉からの着信が何度も入っていた。その画面を見るだけで心臓を刺されたような心地がする。


「これ、あんたに返しておくよ。

案外、ピアニストでも実業家でもなくて、作曲家あたりがあんたの天職だったりして」


柚葉に贈ったはずの携帯プレーヤーを杉崎から手渡された。入っている曲を聞かれたと思うと、心の奥底まで覗き見られたようで気持ちが悪い。


「何故これを持っている」


杉崎は「さあ」と笑って席を立ったが、俺は長い間呆然としてその場所を動けなかった。
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