君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「綺麗だ。……とても綺麗だ。

柚葉の周りだけ、重力が無いようだな。

君のダンスを見ているだけでこんなにも幸せな気持ちになれるとは知らなかった。もっと早く見せて貰えば良かったな。」


「いえ、あの、そんなにたいしたものでは……だいたいのオーディションには落ちてますから」



「今と同じようにできれば、決して落ちることはないだろう。さては柚葉は本番に弱いタイプだな」


澪音がクスッと笑った。とても久し振りに澪音の笑顔を見て、胸の奥がキュッとなる。


「どうしても、自分に自信が持てなくて……周りは綺麗で上手い人ばかりで。比較されると思うと、オーディションではいつも駄目なんです。」


「技術に自信が持てないなら、練習量でカバーするしかなかないんだ。

ピアノとダンスでは違うかも知れないが、研鑽を積む必要があるという点では同じだろう」


私の諦め混じりの弱音を、澪音は慰めも誤魔化しもせずに真面目に受けとめる。


「少なくとも俺の場合は、練習の時に100回中100回とも思い通りに弾ければ本番でもまず失敗しない。

厳しいことを言うようだけど、自信が無いというのはつまり、練習が不足している自覚だ。

そもそも、失敗しないかと考えている時点で思い通りの表現からは遠ざかっているものだからな」


「アドバイス、してくれるんですか?」


「ダンスそのものについては分からないから、俺に分かるメンタルの部分だけ」


どうしてそんなこと言ってくれるんだろう。


澪音がダンスのための曲を作らなかったのは、私が踊るのを止めて欲しいからだと思っていた。


樫月家にとって、私がダンスをしているのは邪魔でしょうがない筈なのに。オーディションなんか落ちて、私がダンスを諦めるのを待てばいいのに。
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