君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「私、澪音のピアノは好きですけど、男の人としての澪音にはもう興味が持てないんです。


元々住む世界が違うし、私はこんなお家には関わらないで、もっと気楽に生きていきたいから。


それに、今はもう杉崎さんのことを好きになっちゃったんです。澪音は覚えてますか? 私のダンスの生徒さんなんですけど、凄く格好いいし、話も面白くて」


一息で捲し立てて、あっけらかんと笑ってみせた。ここからは涙一滴だって漏らしたら駄目。


「それは、柚葉の本心か?」


澪音は声を荒らげるでもなく、乾いた声で呟いた。この顔は以前にも見た記憶がある。彼は本当に傷付いた時には、無表情になるんだ。


「本心です。澪音のような人に振り回されるのはもう懲り懲りなんです。

……これも、返しておきますね。高価すぎて私には似合わないから」


樫の葉のネックレスを外して澪音に手渡そうとすると、痛いほどの力で手首を掴まれた。


「要らないなら捨てればいい。俺に返さないでくれ。

そんなことより柚葉、君の心の内側をもう少し聞かせてくれないか?

俺にはまだ理解できないことばかりだ」


「その手で触らないでと言ったはずです」


澪音の手を乱暴に振り払ってドアまで逃げた。


「澪音の不器用な生き方は嫌いです。見ていてイライラするの。

今後は二度と話しかけないで下さい。

さようなら」


勢いをつけてドアを閉める。

そのあとは、泣きながら走って、走って……。


澪音のお父様に車を呼んでもらって、明け方前には自宅に帰っていた。
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