君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
澪音のことを『良い奴』だなんて、まるでごく普通の人のように話すオーナーが不思議だった。


「そういえばオーナーは、私の恋人が澪音だと知っても、反対はしなかったですよね。

私なんかとは立場が全然違うの人なのに」


「澪音の家や職業は彼が選んだものではないし、それを理由に引き止めるのは違うと思うよ。

そんなことされたら、澪音はどうやっても恋愛なんかできないじゃないか」


オーナーは誰に対しても等しく優しい。澪音が財閥の御曹司だからって、特別視したりしないんだ。


「そうですね、澪音にはフツーの恋愛は許されなかったみたいです。

でも、澪音に相応しい相手はたくさんいますから。きっと私たちとは違う恋をするんだと思います」


そのあとオーナーは何か言おうとして止めて、さらに追加でドルチェを持ってきた。


「美味しいけど太るから困りますよっ」


「悪いが俺は女性の傷心の対処なんて、食べ物くらいしかわからないんだ」


ちょっと天然っぽいオーナーの気遣いに笑って、また仕事に戻る。


バイトとダンスのレッスン、時々オーディション。


澪音と出会う前の生活に戻るだけなのに、時間の流れがやたらと遅く感じた。やることがある時はまだ良いけれど、暇な時間ができると寂しくて叫びたくなる。


澪音の作ってくれた曲はあれから一度も聞いていなかった。聞くと好きな気持ちが溢れて辛くなるから、ネックレスと置き手紙と一緒に引き出しの奥にしまっておいた。
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