君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
Last Stage ウェーバー 舞踏への勧誘
その日はよく晴れた小春日和で、私はニットワンピとショートブーツ、それから樫の葉のネックレスを付けて自宅を出た。


10時に迎えに行くと言われたので、いつもの黒塗りの車を想像して家の前で待っていたら、目の前に二人乗りの車が停車した。ころんとしたフォルムで、可愛いデザインの車。


運転席からは、澪音の顔が覗いて見える。



「澪音って自分でも運転するんですね!意外です」


「日本で運転するのは、今日が初めてだけどな」


……え!?


車が走り出した後に澪音がにこやかに答えて、ちょっと待ってと慌てた。


「それはいくらなんでも怖いんですけどっ

何なら私が運転代わりますから!」


ペーパードライバーの私でも、初めて運転する澪音よりマシなんだからと澪音に訴えても、澪音は笑って取り合わない。


「大丈夫、ウィーンでは通学に車を使ってたから。東京は冬でも雪が積もらないから運転しやすいよ。

でも車線が逆なんだよなー。」


ご機嫌な様子で運転する澪音。

車内でかかっている音楽はピアノでもクラシックでもなくて、ノリノリのブラックミュージックだ。

澪音はカジュアルなローゲージのセーターと細身のパンツ、ゴツゴツしたブーツを身に付けていて、スーツ姿を見慣れている私にはとても新鮮だった。


そういう服装をしていると、樫月家次期当主というよりは、アパレル店員とか美容師と言われた方がしっくりくる。服装のせいもあって、助手席から運転席の澪音を見るといつもよりずっと距離が近くに感じられた。


「今日はいつもと全然違うんですね。そういう服装も似合います」


「ありがとう、今日は休暇だから、少し遠くまで行こう。冬のわりに温かいから丁度良いよ」
< 201 / 220 >

この作品をシェア

pagetop