君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
そう言って笑う澪音に、余計に何を返して良いか分からずにうつむく。


「ほら、やっぱり苛めたくなる」


澪音は頭をぽんぽんと撫でて、その仕草だけでドキドキする。買った服を両手に抱えて前を歩く澪音の背中に「もう……」と呟いた。


その後はランチを済ませて車に戻り、首都高を走る。その時に、澪音が私を庇ってくれた日のことを改めて謝った。


「この前はごめんなさい。心配して怒ってばかりで」


そう言うと、澪音が静かに笑った。


「ああ、あの日のナースコールなら根に持ってる。あれは今思い返しても酷い」


「……そっちじゃなくて!

澪音が庇ってくれたのに、お礼も言わないままで。

……あの時は、ありがとうございました。凄く怖かったから、助けてくれて本当は嬉しかったんです」


澪音が表情を緩めて、前髪を払った。


「礼なんていらない。男が恋人を助けるのは当然だろ。柚葉が無事ならそれでいいんだ」


「澪音の手は大丈夫ですか?」


澪音の左手のひらには、小さな絆創膏が貼られていた。順調に怪我治っているようでほっと息をつく。


「この通り、大丈夫だよ。俺の方こそ大事なオーディションの日に悪かった。次回の募集はいつになる?」


「いえ、私が勝手にオーディションすっぽかしただけですから、自分のせいです。次回はまた来年になっちゃいますけど……」


「そうか、それなら来年こそ絶対受かれよ。最終選考まで残っていたなら、実力に不足はないんだからな」
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