君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
閉店時間になり、バックヤードでエプロンを外していると急に手首を掴まれた。


「うわっ、

……澪音? こんな時間まで店にいたんですか」


「どうして一度も連絡を返さなかった?」


私の体は壁際に押し付けられ、澪音は怒った顔で私を見下ろした。


「……でも、私は特に用事はありませんし」


視線を外して抜け出そうとすると、目の前に腕が伸びて進行方向を塞がれる。


「何で急にそんな態度になるんだよ。俺、柚葉を怒らせるようなことしたか?」


「何もしてないです。だいたい、怒っているのは澪音の方じゃないですか」


「だっておかしいだろ。

話をして、踊って……、

少しは君に近付いたと思ってあの日は別れたのに、ずっと無視するなんて」


私だって、少しは澪音に近付いたと思ったけど、


「澪音はお金で私を買っただけでしょう?

都合よく連れ回せて、後腐れなく離れられる存在が欲しかっただけですよね」


傷付いたような顔をした澪音に、畳み掛けるように続ける。

「それから、報酬が高すぎます。

やっぱり澪音みたいな人って庶民の金銭感覚がわからないんですね。

せいぜい日給一万円くらいが妥当ですから、9万円お返ししますね。」


制服のスカートに忍ばせていた封筒を差し出す。


澪音はそれを受け取らずに私を抱き締め、


「金だけの関係じゃないと思ったのは俺だけか。

ずっと連絡が無いから何かあったんじゃないかと心配してたのに……」

と呟いた。
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