君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「違いますよ」


ぼそっと呟くと、その拍子に涙がこぼれた。


「あれ?……私……泣いてる」


止まらなくなった涙が、澪音の首筋に流れていく。こんなに近くに体温を感じていても、急に心が凍ったように淋しくなった。


かぐやさんが、澪音にとって特別で、大事な人だということはよくわかった。……わかりすぎるほどに。


それなら、素直に婚約すればいいのに……。


「全部、かぐやさんのためなんですね、澪音」


私というダミーを用意してまで婚約を破棄するのは、きっとかぐやさんとお兄さんの仲を引き裂くのが堪えられないからだ。


二人が恋人同士でいられるために、澪音はこんなに頑張ってるんだね。


なんて、献身的な片想いなんだろう。


私じゃ、せいぜい抱き枕くらいにしかなれないけど、でも……


「大好きですよ、澪音」


「かぐや……」


もう一度返された寝言に、また涙が溢れた。


大好きだけど、澪音は酷い人だ。澪音の気持ちを知ってしまったら、これまで通り振るまえるだろうか。


「澪音、私たちはお互い失恋したもの同士ですね」


全く眠くはないけれど、澪音の腕の中で目を閉じて、遠い朝を待った。
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