君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「それなら、そのままでいいから聞いてよ」


「……はい」


肩に息がかかりそうな距離で、澪音の声が聞こえてくる。


「俺、柚葉に会ってから毎日楽しいんだ。

急に当主になれと言われて、何もかもどうでも良いと思ってたけど、

柚葉にパーティーに来て貰って、一緒に踊って……

もう少し、自分の置かれた状況に抗ってみたくなったんだ」


「抗うというと、かぐやさんとの婚約のことですか?」


「それも含めてだけど、もっと根本的に。

ここから先は上手くいくまで話さないけど」


「?」


「何かを諦めるのは、もう止めにする。

って、柚葉に言っておきたかったんだ」


「そう、ですか……」


静かに語る澪音の言葉を聞いて、澪音が今までどんなことを諦めてきたのか考えた。


言うまでもなく、その一つは音楽の道のはず。


世界中から喝采されるほどの実力を持っているのに、ピアニストとして生きることはできない澪音。


「本当はもっとピアノを弾いていたいですか?」


その返事がいつまでも返ってこないので、心配になってそっと振り向くと、澪音は小さな寝顔を立てていた。


「なんだ、もう寝てたんですか」


薄暗い明かりに照らされた澪音の寝顔を覗きこむ。


「きれいな肌。

さっきまで話してたと思えないくらい、無防備に寝てるなぁ……」


くっきりと浮かぶ引き締まったフェイスラインや、形の良い唇。長い睫毛。普段はじっくりと見れない澪音の顔を観察する。


「……や」


澪音が何か呟いて、私を抱き寄せる。


「うわっ……!」


どうやら、寝たまま私の体を抱き枕のようにしているらしい。私の顔は澪音の首筋にぴったりと付けられ、澪音の安らかな鼓動が伝わってきた。


「んっ、……離れない……」


長い腕が体に回されて、私の力ではびくともしない。澪音は時々、いかにも末っ子といった感じの甘えた顔を覗かせる。


この人のこういう所は、いろんな女の子をドキドキさせてきたんだろうな……。これだってただの寝相なんだから、勘違いしちゃだめだ、と自分に言い聞かせた。


「……や、

かぐや……」


「寝言?

かぐやさんを呼んでるの?」


「かぐや」


満足そうに呟いた澪音は私を一層強く抱き寄せた。
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