君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「澪音は、お昼済ませたんですか?」


「ランチミーティングで、提携企業と一緒にね。夕方も会食の予定が入ってることが多くて、大概外で食べてるな」


「今更ですけど、澪音は凄い人なんですね……何だか別次元の存在だなぁ」


「全然そんなことないって。

今は父に同行してるだけで、まだまだ修業中の身だよ。相手にも、頭の軽そうなジュニアが来たと思われてるくらいだから」


「う……、それは辛いですね」


「そんなこと無いですよ」と言いたいところだけど、華やか過ぎる澪音の容姿がビジネスの世界では浮いて見えることは簡単に想像がついたので、社交辞令のような言葉は言えなかった。


でも、澪音は一向に気にすることなく、


「いや、これはこれで面白いよ。

俺のことを前評判と外見であからさまに見くびってくる奴もいるし、俺なら扱いやすそうだとすり寄ってくる奴もいる。

ビジネスのパートナーになり得る相手は、力を持ってない今の方が分かりやすいかもな」


含み笑いで面白そうに語るのは、あまり見たことのない企業家としての顔だ。私がピアニストとしての澪音しか知らないだけで、案外仕事もしっかりしているのかもしれない。


「それじゃ、また夜に。少しだけでも会えて良かった」


そう言って澪音は慌ただしく出掛けて行った。食事は済ませていたのなら、わざわざ私に声をかけに来てくれたんだ。私なんかに、優しすぎるほど優しい人だな……。


「午後はマナー研修さえ終わればダンスレッスンだから、あと少し、頑張ろ!」
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