君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
弥太郎さんは「そうか」と数秒ほど私を見たけれど、それ以上は何も言わずに仕事に戻った。


それから私はずっとベッドルームで澪音の演奏を聞いている。


前にクロスカフェで弾いて貰ったドビュッシーの「月の光」は、なんと6歳の澪音が弾いていたので驚いた。あどけない容姿と不釣り合いなほど、大人びた演奏。


こんな貴重な演奏を観られるのも弥太郎さんのお陰だ。弥太郎さんはまるで澪音のファンのように、澪音の記録を大事に保管していた。


「なんだかんだ言って、ブラコンなのは弥太郎さんの方だよね」


そうして2日ほど、私は弥太郎さんの部屋でゆっくりと回復していった。



* * *


「今日こそ出ていこう」


3日目ともなると、弥太郎さんの部屋に備えられたバスルームを使わせて貰うのも既に慣れたものだ。仮にも男性の部屋でこれほど寛いでいるのは、自分でもいかがなものかと思う。


でも、弥太郎さんは全くといって良いほど私を女扱いしないので、こちらもつい気が緩んでしまっている。


シャワーを浴びてバスローブ姿で戻ろうとすると、突然荒々しいノックの音が部屋中に響き渡った。


「澪音です!

開けてくださいっ!!」


急いでバスルームに戻る。今、澪音と顔を合わせたくはない。


扉を開けてこっそり様子を伺うと、弥太郎さんは慌てる様子もなく、普段通りの様子でドアに手をかけた。
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