君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「そんな淡い想い出も、3日前に思い出したくもない悪夢に上書きされたわけだけど……」


と、澪音は額に手をあてて、鬱陶しそうに前髪をかき上げた。まだ濡れた髪は、緩く毛先が跳ねている。


「あんまり言いたくもない話だけど、誤解されると嫌だから説明するよ。


婚約の段取りを俺が一向に進めないから、青山会長が焦れててさ。あれでもかぐやは俺を心配してたんだろうな。

家同士の問題に発展しかねないからって、

『この私が覚悟を決めたんだから澪音も覚悟しなさい』とか言って無理矢理俺に跨がりそうな勢いで」


「まま、ま跨がる!?」


「な、怖いだろ?

覚悟を決めてそういうコトするって発想がそもそも嫌だし」


同意を求められても、私には刺激の強過ぎる話でそれどころではない。


「『私を抱くまで帰らない』なんてのはまだましで、

『寝てる間に既成事実を作ることなんか容易い』って睡眠薬を盛ろうとするし。


だんだん『減るもんじゃなしさっさとヤれ』とか、『歳とったのが気に入らないのか』とか、オッサンみたいなことを言い出す始末でさー……」


「それ……かぐやさんの話、ですよね?」


深窓の令嬢のかぐや姫がそんなことを口走るなんて、全く想像できないんだけど。



「ああ見えて一本気というか、激しい気性の人なんだよ。


それで俺は、時間稼ぎにかぐやの好きそうな曲を弾いてご機嫌をとってみたんだけど。


そしたら冗談に聞こえないような声で『逃げるとは良い度胸だ。ミスタッチしたらその指折ってやる』とか脅してくるから。俺は正確な打鍵には自信のある方だけど、あのプレッシャーはマジでミスするかとヒヤヒヤした。


その時にちょうど柚葉が帰ってきたというわけ」
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