直さんと天くん
その後、返事をする間も無くバスが通りかかり、慌てて乗り込んだ。
人里離れた場所だから、これを逃したら、次のバスはいつ来るかわからない。
一番後ろのシートに肩を並べて座った。
バスが走り始めてからは、照れくささから窓の景色を見ているふりをして、天くんとはほとんど会話をしなかった。

夕暮れの街を横目に、バスは走る。
バスが一度大きく揺れて、私の肩に天くんの頭がこてっと乗っかった。振り向いて見ると、瞼を閉じて、静かに寝ている。

「んん〜、直さぁん…」

寝言で私の名前を呼ぶ。
ばあちゃんの家に泊まった日の朝もそうだったけど、私の夢でも見てんのか…?

ぐっすり眠っている寝顔を見つめる。

イケメンだけど不思議ちゃんだし、私生活謎だらけだし、八つも年下だし、ススキ持ってたし。
でも、嫌いかと言われるとそんなことはない。
むしろ、その、す、好き、なんだと思う。
まさか、こいつを好きになるとは…人生って何が起きるかわかんねぇな…。
けど、自覚がなかっただけで、素直に認められなかっただけで、本当は私も前から天くんを好きだったのかも…って、あ〜恥ずかしい〜…私のガラじゃないだろ、こんなの…。

天くんが口をむにゃむにゃ動かす。
目を覚ます気配はない。
バスの乗客は少ないけど、誰にも聞こえないように、天くんの耳元に口を寄せた。

「…私も好きだぞ、天くん」

…なのに、何で寝てるかなぁ。
まあ、恥ずかしいから、寝てるときじゃないと言えないんだけどさ。



20171124,27,1214
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