ヤンデレくんとツンデレちゃん
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「毎日、ご苦労なことね」
梁の家から50メートルほど離れた場所の、道路の傍らに停められた黒いメルセデスから出てきたのはスーツ姿の女性だった。
「あんな小娘の送り迎えだけじゃなくて勉強のお世話までしたなんてね?」
黙って乗り込む愛を呆れた目で見る女。
「……千穂のおしゃべり」
ドスっとシートに座ると足を組む愛。
視線は窓の外を向いている。
「当然でしょ。あの子は、あなたのお目付け役なんだから」
「にしては、梁ちゃんに張り付いてるけど。なにあれ?」
どんどん不機嫌な顔になる、愛。
その顔は学校でみせるマイペースな彼とはまるで違って冷え切っていた。
「どこの馬の骨かもわからない女にあなたがハマってるなんて。旦那様が聞いたらきっと呆れ……」
「うるさいなぁ。キミにボクのプライベートにまで口出しする権限あんの? 別に迎えに来なくても帰れるけど?」
「あなたは闇雲家の長男でしょ」
「ボクはボクの人生を生きるよ」
「旦那様が海外に出ているからいいものの。帰られたらこうも好き勝手できないわよ?」
「…………」
「とにかく。散々我儘聞いてるんだから。こっちの言いつけも守ってもらわないと困るわ」
2人を乗せた車が坂を下っていく。