宵の朔に-主さまの気まぐれ-
爪の手入れはいつも柚葉がしてくれる。
目が見えなくなって以来身なりに頓着しなくなったが、柚葉はいつもそれを叱って化粧をしてくれたり爪を磨いたりしてくれる。
「姫様の手は本当にきれい。爪の形も色も。今度草花の汁を絞って爪に塗ってあげますね」
「ありがとう柚葉。それに比べてあなたの指…どうしたの?でこぼこになってるわよ?」
「ああ、これは…工具を触っているうちにまめができてしまって…恥ずかしい」
様々な小道具や着物などを作っているうちに指に傷ができたりまめができたりで、柚葉の手はすっかり荒れてしまっていた。
だからこそきれいな凶姫の手を自分の指と見立ててきれいにするのがとても楽しかったのだが、凶姫にとても心配されて苦笑した。
「駄目よ、あなたは女なんだし目も見えるんだからきれいにしていないと」
柚葉の休憩時間を見計らって足しげく部屋を訪れていた凶姫だったが――突然妙な胸騒ぎを覚えて胸を押さえた。
「姫様?」
「どう…したのかしら。胸騒ぎが…」
「朔!!」
屋根の上から聞こえた大声に凶姫がはっと顔を上げて素早く立ち上がると、庭に通じる障子を開けて外に飛び出した。
突然の行動に柚葉は驚いて動けずにいたが――屋根の上に居た銀は、暗雲が立ち込め始めた空を鋭い眼差しで睨んでいた。
「来たか」
「朔…"渡り”だな?殺してもいいんだな?」
銀は九尾の大妖だ。
この国だけでなく他国にまで轟くほどに暴れまわった過去があり、"渡り”との戦い方も熟知していた。
「待て。あれは俺を殺しにやって来たんだ。俺が殺す」
「月!」
刀を持って庭に出た朔に凶姫が駆け寄ろうとしたが、その手を朧が強く掴んで制止した。
「男同士の戦いに首を挟んでは駄目。こっちに居て」
「朧さん…!でも!」
「兄様は大丈夫。兄様には守るべきものが沢山あるから強いの」
上空に暗黒の穴が開く。
禍々しい景色に銀、雪男、朔というこの国を…朔を守らんとする者が立ちはだかる。
目が見えなくなって以来身なりに頓着しなくなったが、柚葉はいつもそれを叱って化粧をしてくれたり爪を磨いたりしてくれる。
「姫様の手は本当にきれい。爪の形も色も。今度草花の汁を絞って爪に塗ってあげますね」
「ありがとう柚葉。それに比べてあなたの指…どうしたの?でこぼこになってるわよ?」
「ああ、これは…工具を触っているうちにまめができてしまって…恥ずかしい」
様々な小道具や着物などを作っているうちに指に傷ができたりまめができたりで、柚葉の手はすっかり荒れてしまっていた。
だからこそきれいな凶姫の手を自分の指と見立ててきれいにするのがとても楽しかったのだが、凶姫にとても心配されて苦笑した。
「駄目よ、あなたは女なんだし目も見えるんだからきれいにしていないと」
柚葉の休憩時間を見計らって足しげく部屋を訪れていた凶姫だったが――突然妙な胸騒ぎを覚えて胸を押さえた。
「姫様?」
「どう…したのかしら。胸騒ぎが…」
「朔!!」
屋根の上から聞こえた大声に凶姫がはっと顔を上げて素早く立ち上がると、庭に通じる障子を開けて外に飛び出した。
突然の行動に柚葉は驚いて動けずにいたが――屋根の上に居た銀は、暗雲が立ち込め始めた空を鋭い眼差しで睨んでいた。
「来たか」
「朔…"渡り”だな?殺してもいいんだな?」
銀は九尾の大妖だ。
この国だけでなく他国にまで轟くほどに暴れまわった過去があり、"渡り”との戦い方も熟知していた。
「待て。あれは俺を殺しにやって来たんだ。俺が殺す」
「月!」
刀を持って庭に出た朔に凶姫が駆け寄ろうとしたが、その手を朧が強く掴んで制止した。
「男同士の戦いに首を挟んでは駄目。こっちに居て」
「朧さん…!でも!」
「兄様は大丈夫。兄様には守るべきものが沢山あるから強いの」
上空に暗黒の穴が開く。
禍々しい景色に銀、雪男、朔というこの国を…朔を守らんとする者が立ちはだかる。