宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔の激情は、一度や二度では治まらなかった。

普段穏やかな気質だが、反動なのかこれが本性なのか――凶姫が艶やかに上げる声は止むことなく、攻め立てる。

攻め立てるが一方的なものではなく、触れる度に愛されている、と凶姫に強く思わせていた。


「朔…朔…!」


「きりがないな…」


頬を伝う汗を手の甲で拭った朔は、ぐったりしている凶姫の身体を起こして抱きしめると、同じように汗に濡れる身体を乾いた手拭いで拭いてやって首筋に顔を埋めた。


「ごめん、一方的だったかな」


「いいえ…大丈夫。私、本当に…抱かれちゃったのね」


「ん、俺に抱かれたな。でも全然足りてないんだけど」


「だ、駄目よあなた病人だし、私なんだかもうへとへと…」


傷の痛みなどすっかり忘れていた朔は、傷口から少し出血しているのを見て苦笑した。


「これは輝夜に叱られる」


「私を抱いた男は数日中にあの男に殺されたわ。あなたが生きていることを知ったかもしれない…」


「そこは輝夜に任せてあるから心配ない。俺も疲れたけど…でもまだ…」


一緒に横になりながら見つめ合い、唇を重ねるとまた欲情が競り上がってきて自身を諫めるために大きく息をついて凶姫の瞼に口付けをした。


「気持ち良かった?」


「な…何を言ってるのよ…そんなこと聞かないで」


「俺はすごく気持ちよかった。お前は?」


「………私も同じよ…」


「え?声が小さくて聞こえない。今なんて?」


「だから…私も気持ち良かったって言ったの!」


とうとう言わせることに成功した朔は、愛しさに溢れた眼差しで凶姫を見つめてふっくらした唇に指で触れた。


「皆にお前を妻にすることを言いたいんだけど…駄目か?」


とても嬉しい申し出だったが――柚葉の顔が頭に浮かんで表情を翳らせると、朔は凶姫の頭を抱いて目を閉じた。


「早計だったな、‟渡り”を粛正してからでいいか」


「ごめんなさい。朔、少し寝ない?あなたの身体が心配だわ」


「ん。これからは毎日通い合おう。毎日抱かないと治まらない」


人目を忍んで、会いに行く――


そう言われてぞくぞくして、頷いた。


惚れた男に抱かれた――嬉しさでいっぱいになって、心から笑顔になった凶姫に朔は見惚れてまた愛しさに溢れた。
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