宵の朔に-主さまの気まぐれ-
風呂に入ってさっぱりした朔は、髪を拭きながら庭に下りて池の鯉を眺めていた。

子を持つ――今まで考えたこともなかったが、雪月花が見せた幻のせいでそれを意識してしまって縁側でじっと待っている凶姫にも声をかけることができないでいた。


「朔」


「父様、どうしました?」


「さっきのを見た。突然動きが止まったがどうした」


「ああ…雪月花ですよ。あれの幻を見て戦う気が失せました」


「雪月花か。俺もあれには苦労させられた。…何を見た?」


珍しく十六夜から声をかけられた朔は、ほとんど表情が変わることのない父の目を見て息をついた。


「嫁を貰って子ができて…その子の首が落ちる幻を見たんですよ。あんなのは見たくなかったな…」


「…そうか」


それから何も言わずふたりで鯉を眺めていると、突然十六夜がふっと笑った。


「お前が息吹の腹に宿るまでかなり時がかかった。生まれたら生まれたで…可愛くてな。百鬼夜行に出るのが嫌になった時期があった」


「そう…なんですか?初耳ですが」


「お前は手がかからない子だったが俺たちにとって初の子でずっと傍に居たかった。…お前もそう思ったか?」


想像してみた。

だがまだ子を持って平穏に暮らしている自身の未来が見えずに首を振ると、十六夜は朔の肩を抱いて髪をくしゃりとかき混ぜた。


「想像できないのならお前にはまだ早いということだな。雪月花は幻であり、現実ではない。囚われるな」


「はい、ありがとうございます」


「しかしお前たちは悩みができると池の前に居るな。分かりやすい」


幼い頃から輝夜とふたり、悩みがあるといつもここに来ていたことに気付かれて苦笑すると、十六夜はふっと笑って屋敷に引き返して行った。


「あれは…幻なんだ。くそ…雪男めいじめてやる」


逆恨み、爆発。
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