宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔も雪男も俊敏性を得意とする戦法が多く、身のこなしが速すぎて柚葉たちは目で追うことすらできなかった。
輝夜の時にはやはり多少遠慮していたのか、雪男と刃を打ち合わせている朔は本気で向かっていて、いくら師匠とおだてられてもそれは昔の話で、今の朔にはかすり傷を負わせることもできないのではと思わせていた。
「ちょ、主さまっ、そんな動くと傷が…」
「俺の心配より自分の心配をしろ。ほら、そこで嫁が見てるぞ。いいとこを見せたくないのか?」
「いいや、主さまと俺のどちらかを心配するなら俺の嫁は主さまを心配するに決まってんだろ。主さまこええよ目が!」
ぎらぎらした目で雪男を見据えている朔は久々に全力でぶつかることができて心の底から楽しんでいた。
もう腹の心配はしなくていい。
輝夜は今は受け身で‟渡り”を待ち受けていた方がいいと言ったが――性分ではない。
――雪男が手に握っている愛刀は本人の意図せずして相手に幻を見せる。
淡白く発光した雪月花は朔に一瞬幻を見せた。
それはとても穏やかな光景で…
凶姫とふたり縁側に座り、何かをふたりで覗き込んでいた。
上がる産声――
小さな紅葉のような手に触れて、至福の時を過ごしていると――急に闇の帳が下りて何かが一閃した後、その小さな首が――
「…っ!」
「取った!」
雪月花の刃先が朔の首にぴたりとあてられると、朔は恨みがましく雪男を睨みつけて親指と人差し指で刀身をつまんで離した。
「今のは卑怯だぞ」
「いや、俺はこいつの幻操れないから。なんか見えたか?」
「…見たくないものを見た。今日はもういい」
ふいっと身を翻して刀を鞘に収めた朔は、縁側で正座して緊張していた凶姫に一瞬視線をやったが、何も言わず通り過ぎて追ってきた輝夜に愚痴を零した。
「敗けたと思いたくないが、敗けたのか?」
「ええまあそうですね、雪月花の威力を甘く見ていたのが敗因でしょう」
ふん、と鼻を鳴らした朔は、その後しばらく部屋に引き篭もって雪月花の見せた悪夢を必死に打ち払った。
輝夜の時にはやはり多少遠慮していたのか、雪男と刃を打ち合わせている朔は本気で向かっていて、いくら師匠とおだてられてもそれは昔の話で、今の朔にはかすり傷を負わせることもできないのではと思わせていた。
「ちょ、主さまっ、そんな動くと傷が…」
「俺の心配より自分の心配をしろ。ほら、そこで嫁が見てるぞ。いいとこを見せたくないのか?」
「いいや、主さまと俺のどちらかを心配するなら俺の嫁は主さまを心配するに決まってんだろ。主さまこええよ目が!」
ぎらぎらした目で雪男を見据えている朔は久々に全力でぶつかることができて心の底から楽しんでいた。
もう腹の心配はしなくていい。
輝夜は今は受け身で‟渡り”を待ち受けていた方がいいと言ったが――性分ではない。
――雪男が手に握っている愛刀は本人の意図せずして相手に幻を見せる。
淡白く発光した雪月花は朔に一瞬幻を見せた。
それはとても穏やかな光景で…
凶姫とふたり縁側に座り、何かをふたりで覗き込んでいた。
上がる産声――
小さな紅葉のような手に触れて、至福の時を過ごしていると――急に闇の帳が下りて何かが一閃した後、その小さな首が――
「…っ!」
「取った!」
雪月花の刃先が朔の首にぴたりとあてられると、朔は恨みがましく雪男を睨みつけて親指と人差し指で刀身をつまんで離した。
「今のは卑怯だぞ」
「いや、俺はこいつの幻操れないから。なんか見えたか?」
「…見たくないものを見た。今日はもういい」
ふいっと身を翻して刀を鞘に収めた朔は、縁側で正座して緊張していた凶姫に一瞬視線をやったが、何も言わず通り過ぎて追ってきた輝夜に愚痴を零した。
「敗けたと思いたくないが、敗けたのか?」
「ええまあそうですね、雪月花の威力を甘く見ていたのが敗因でしょう」
ふん、と鼻を鳴らした朔は、その後しばらく部屋に引き篭もって雪月花の見せた悪夢を必死に打ち払った。