宵の朔に-主さまの気まぐれ-
それから朔の機嫌が悪くなった。


…何かと言っては女を紹介したがる祖母だが、こんな強硬策に打って出たことはない。

いつまで経っても独り身で次代の百鬼夜行の主を作らないことに業を煮やしているのは申し訳ないとは思ってはいるのだがーー


「とりあえずさ、一度会ってみれば納得するんじゃないか?それにすごい美女が主さまを待ってるかもだぜ」


「俺は女を世話されるほど落ちたのか?」


ーーとんでもない。

妖の世界で言う青年期に入り、今が華の時。

気力も体力も充実して、朔の黒瞳の中にたゆたう妖気の光はさらに輝きを増して、目を合わせるだけで卒倒する女も居るほどだ。


「いや、うーん…主さまはあれだな、理想が高いんだろうな。だからいつまで経っても決められないんだろ」


「別に理想もへったくれもない。違う、と思うだけだ」


ふてくされたようにまた寝転んでしまった朔の髪を雪男がくしゃりとかき混ぜる。


「うちの子たちと遊んで満足してるんじゃ駄目だぞ。主さまは嫁を貰って子を作らないと周りが納得しないからな」


「うるさいな、あんまり世話を焼くと離縁させてやる」


切り札が登場して雪男が口をぱくぱくさせると、朔は横向きになって庭に咲いているつつじの花を眺めた。


『朔……』


目を閉じると幻聴が聞こえた。

もうずっとずっと聞いていない、聞き逃してしまうほどに小さな声のあの娘ーー


「…どこで何をしているんだろうな」


「え?」


雪男が朔が見ている方に目をやると、そこには色とりどりのつつじが咲き乱れていた。


そして雪男も朔が何を想っているのかそれで分かった。


一時期、朔に寵愛されて妻に迎えるかもしれないと周囲が思っていたあの娘ーー


突然朔の前から姿を消した、あの娘。
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