宵の朔に-主さまの気まぐれ-
子まで作り、しかも相手は百鬼夜行の主――

取り付く島もない風雅はがっくり肩を落として幽玄町を出て行った。

そして騒ぎを聞きつけた息吹が庭に出てくると、古参の百鬼一同がわっと声を上げて息吹に群がった。


「息吹!坊ちゃんが嫁も子も一気にもらえて嬉しいだろ?」


「ふふふ、そうなの。みんなに言えなくてごめんね。まだ姫ちゃんの体調が安定してないからみんな静かにね」


「おう!息吹、こっちに来て百鬼夜行前に一杯やろうぜ」


息吹が赤子の頃から知っている者が多く、息吹は自分たちで育てたのだと自負している彼らが群がっているのを見た朔は、にこにこして凶姫を膝に乗せたまま縁側に座り直して背中を摩ってやった。


「みんなが喜んでくれてるからもうちょっとここに居ないか?」


「ええ大丈夫よ。風雅、がっくりしてたわね。ね、いい男だったでしょ?」


「あんなの大したことない。本当に手は出されなかったんだろうな?」


「手は繋いだことはあったと思うけど、それ以上はないわね。なんなの、やきもち?」


つんとそっぽを向いて突っぱねてみせた朔が面白くて胸に身体を預けながら皆の祝福の声を聞いていた。

…ここには本当に自分の過去を諫めたり、朔の嫁に相応しくないなどという者はひとりも居ない。

例えようもなく嬉しくて朔と同じようににこにこしていると、輝夜がまだ痛そうな声を上げていた。


「いたたた、お嬢さん痛いですって。冗談じゃないですか。あそこは笑うところですよ?」


「いいえ、ややこしくなっただけでしたよ!全く!信じられない!」


「柚葉、それ位にしてあげて。輝夜さんには後で私がお仕置きするから」


「なんですかその素敵な響きの言葉は」


…全く堪えていない。


「俺もそのお仕置きとやらに参加するか」


「えっ?兄さんが?それは嬉…怖いなあ」


場が和む。

和んだが――


「残るは輝ちゃんだけ!ね、十六夜さん」


「ははは」


乾いた笑みを浮かべた輝夜だったが、朔は助け舟を出すことなく満面の笑みで頷いていて苦笑の色を濃くさせた。
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