宵の朔に-主さまの気まぐれ-
輝夜はしきりにこの屋敷内で決着をつけようと朔に説いた。

目下不安視される地下の件については片がついていると言っていたが――自分でも確認したくて人目を忍んで地下へ行き、自らその確認を行って確かに地下の主から了承を得たと分かると上へ戻って輝夜の元へ行った。


「輝夜、本当にここは問題ないな?」


「幽玄町の外れに導くのも手だとは思いますが、結界でここに閉じ込めておいて戦った方が住人への被害は皆無になります。お祖父様の十二神将を使った結界は絶対に破れませんからね」


「そうか。俺が生きていることも知られているのか?」


幼い頃はひとつの部屋を使っていたため実質輝夜の部屋というものはなく、客間を使わせてはいるが輝夜はあまりそこには居ない。

大抵は朔の部屋に無断に上がり込んで何をするでもなく瞑想していることが多いのだが、相変わらず自室に上がり込んでいた輝夜に湯飲みを差し出した朔は傍に座って輝夜が頷いたのを見て息をついた。


「確かに何かに気付いた感じだった。凶姫についてはどうだ?」


「…」


黙った。

こういう時は無理に追及してはならない。

それに輝夜は以前こう言った。


『とてもつらいことが起きる』と。


見えていた未来が変わって、困難が訪れると言った。

凶姫が妊娠したことは逆に喜ばしいことだっただけに、朔の目が不安の光で瞬くと、輝夜は少し笑んで自身の掌を見下ろしていた。


「確固たる未来に向かうまでの道筋は変わるものです。兄さんのは少し枝分かれしすぎてるのかな。こういうのは珍しいんですが、多分お嬢さんが関わってるんですね」


「そういえばお前はお前自身の未来は見えないって言ってたな。柚葉のも見えないんだろう?だったら…」


その先を言わず黙り込んだ朔に輝夜は肩を竦めて唇を尖らせた。


「なんですか?気になるじゃないですか」


「いや、多分勘違いじゃないけど言わない。仕返しだ」


「気になるなあ。でも兄さん大丈夫ですよ。ここが戦いの場になれば地の利があります。私もついていますから」


「ん、心強い」


軽く拳を突き合わせて茶を口に運んだ。

この戦いが終わった後、この弟とまた別れなければならないことにならないよう祈りながら、物静かで本音を言わない弟を見つめていた。
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