宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「どうなっている?もう全て終わったんじゃないのか?」
突然部屋に押し掛けてきた十六夜を無表情で見つめた椿は、ふるふる首を振って居住まいを正して座り直した。
「私も終わったと思っていましたが、坊ちゃんは納得しませんでしたので」
「…朔が?」
「はい。まだ未熟だから教えてほしい、と」
「…真の目的は昨晩達成されたのでは?」
――険しい表情の十六夜に臆することなく表情を崩さない椿は、十六夜が眼前に座るまでじっと待って口を開いた。
「それは達成されました。…主さま、坊ちゃんは滞りなくお子を作ることができます。次期当主の座に就くのは何ら問題がないかと」
「…そうか。それが分かればいい。後は朔が納得するまで鍛錬してやってくれ」
「はい」
腰を上げてすぐ部屋を出て行ってしまった十六夜を見送った後、椿は昨晩の情事を振り返って膝を抱えて座り、顔を伏せた。
…はじめてにしては、ものすごく筋が良かった。
油断をすればこちらが声を上げてしまうような緩急で攻められて、教えるべきことなどもう何もないように思えたが――
「…求められているうちは、それに応える」
『お前など生きている価値はない』
敬愛する者の非情な一言が脳裏に鳴り響き、唇を噛み締めた椿はその妄執のような声を振り切るかのように顔を上げて庭に飛び出して朔の元へ向かった。
強くなることで、誰にも自分の存在を否定できないようにしてきた。
否定をされると――手のつけられない獣のように荒れ狂い、敵を薙ぎ倒してきた。
「求められているうちは…」
いつか、求められなくなる。
そう分かっていても、離れることはできなかった。
突然部屋に押し掛けてきた十六夜を無表情で見つめた椿は、ふるふる首を振って居住まいを正して座り直した。
「私も終わったと思っていましたが、坊ちゃんは納得しませんでしたので」
「…朔が?」
「はい。まだ未熟だから教えてほしい、と」
「…真の目的は昨晩達成されたのでは?」
――険しい表情の十六夜に臆することなく表情を崩さない椿は、十六夜が眼前に座るまでじっと待って口を開いた。
「それは達成されました。…主さま、坊ちゃんは滞りなくお子を作ることができます。次期当主の座に就くのは何ら問題がないかと」
「…そうか。それが分かればいい。後は朔が納得するまで鍛錬してやってくれ」
「はい」
腰を上げてすぐ部屋を出て行ってしまった十六夜を見送った後、椿は昨晩の情事を振り返って膝を抱えて座り、顔を伏せた。
…はじめてにしては、ものすごく筋が良かった。
油断をすればこちらが声を上げてしまうような緩急で攻められて、教えるべきことなどもう何もないように思えたが――
「…求められているうちは、それに応える」
『お前など生きている価値はない』
敬愛する者の非情な一言が脳裏に鳴り響き、唇を噛み締めた椿はその妄執のような声を振り切るかのように顔を上げて庭に飛び出して朔の元へ向かった。
強くなることで、誰にも自分の存在を否定できないようにしてきた。
否定をされると――手のつけられない獣のように荒れ狂い、敵を薙ぎ倒してきた。
「求められているうちは…」
いつか、求められなくなる。
そう分かっていても、離れることはできなかった。