宵の朔に-主さまの気まぐれ-
まさに鬼神の如き目をしていた。

これは生半可に拳を突き合わせれば、殺されてしまうかもしれないと思うほどに殺気を放っていた。


「師匠…?」


「十戦中全てに命を賭してお前を仕留める。たかが肌が一度触れ合っただけで思い上がるな。小僧、私はまだまだやられるわけにはいかない」


「何か…あったんですか?父に何か言われたとか」


「いいや、私の心の問題だ。来い」


人差し指でちょいちょいと挑発された朔は、殺気の漲る椿の気迫に気圧されて攻めあぐねていた。

このままでは本当に仕留められてしまう――

思い上がっていたわけではないが、椿と一夜を過ごしたことで少しは打ち解けてくれたのではと期待していたが、椿は逆に心を氷のようにして全身で拒絶していた。


「…別に師匠を抱きたいから…というわけではないですけど、俺も本気でいきますよ。でないと俺を殺す気でしょう?」


「そうだ。お前の如き小僧にやすやすと何度も身体を許すものか。来い。さらに強く…人の心を捨ててかかって来い。お前に足りないのは非情さだ。私を殺す気で来い」


椿を本当の敵として捉えなければ、勝つことはできないだろう。

朔は束の間目を閉じた後、かっと目を見開いて目の中に青白い炎を燈らせた。

戦えば戦うほど、そういう生き物だと感じて血が沸騰する感じ――

それを全身で感じながら、猛り狂う獣のような目で椿を捉えて構える椿の間合いに足音もなく踏み込んで後退する間を与えず爪で薙いで椿の頬に傷をつけた。


「…速い!」


「あなたが頑なになる訳を知りたい。だから仕留められるわけにはいきませんよ」


「…お前風情に私の闇が理解できるものか」


歯を食いしばるその表情――


この人を、救わなければ。


朔の眼光は鋭く光り、椿を攻め続けた。
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