宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔が傷を負っていたと聞いて、昨晩共に百鬼夜行に出ていた銀が駆け付けてきた。

妖ならば誰もが知っている白狐の九尾の出現に柚葉が恐れ戦いて身体を震わせたが、朔は手で脇を押さえて顔をしかめながら安心させるように笑いかけた。


「昔はやんちゃしていたようだが、今は大人しいから怖がるな」


「やんちゃとはなんだ。そんな可愛らしいものじゃなかったんだがな。それより傷を見せろ」


雪男と銀、山姫に囲まれて辟易した朔が仕方なく胸元から腕を抜いて上半身を晒すと、あまりにも均整の取れた裸に柚葉は思わず頬を赤らめて俯いた。


「なんとかできるってどうするつもりだ?」


「わ、私は治癒の術を使えますので…」


「本当か!じゃあすぐに治してやってくれ」


雪男に頼み込まれて気を取り直した柚葉は、朔の左わき腹がどす黒い色になっているのを見て思わず叱ってしまった。


「ひどい…!痛かったでしょう?どうしてこんなになるまで黙っていたんですか!」


「いや、大したことないと思ってたから…」


「攻撃を受けた時痛かったはずですよ。眠れなかったんじゃないですか?」


「…まあ…多少」


「主さま、ちゃんと話してもらわないと困る。もし何かあったらどうするんだ」


「すまない」


素直に謝った朔に肩を竦める面々。

柚葉は精神を集中させてどす黒く変色しているわき腹に手を翳す。

翳した掌からは青白い光が溢れ出して、その温かさに朔が目を閉じた。


「気持ちいいな…」


「じっとしていて下さい」


真剣な顔の柚葉だが、なにぶん眉が下がって癖のある髪はあちこち跳ねていて、姫と言われてもぴんとこない。

日々神経がささくれ立っていた朔は、一時の癒しに身を投じて微笑む。


「気持ちいい…」


また呟いて柚葉がもたらす癒しの光に包まれて癒された。
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