宵の朔に-主さまの気まぐれ-
柚葉は輝夜の言葉を鵜呑みにしてゆっくりでいいんだとのんびりしていたのだが――

押しの強い朔は、百鬼夜行から戻って風呂に入った後、朧が作ってくれた朝餉を食べながら柚葉をちらちら見ていた。

柚葉は輝夜をちらちら。

輝夜も柚葉をちらちら。

凶姫はふたりをちらちら。

視線が交差する妙に緊迫した朝餉となったが、さすがに疲れを感じた輝夜が少し睡眠を取るために部屋に下がると、朔は茶を飲んでいる柚葉の隣に移動して、食卓に頬づをついて顔を覗き込んだ。


「柚葉、ひとつ知っていてほしい話があるんだ」


「なんですか?」


「実は輝夜に縁談の話が沢山来てる。そろそろ独り身でいるのにも限界があるみたいで、次はお祖父様とお祖母様が輝夜に嫁をあてがいに来るかもしれないんだ」


思わず咳き込んだ柚葉の背中を摩ってやった朔は、驚いて目を見張っている柚葉に証拠として何十通もの縁談の申し出や恋文を見せた。


「お前たちはまだ将来を誓い合った仲じゃないんだろう?もしお前にその気がないのなら、形だけでも顔合わせはしないといけないかもしれない。一応それを言っておきたくて」


「そんな…でも鬼灯様はゆっくりでいいって…」


「あいつはそう言ったかもしれないけど、周囲はそうはいかないんだ。もう独り身なのは兄弟で輝夜しか居なくなるし、いつまでも縁談を断ってはいられない。繰り返すけど、何人かの娘と顔合わせはするかもしれないから、そこは承知しておいてくれ」


――男女の仲にはなったが、鬼族は奔放な者が多く、たった一度そういう関係になったからとはいえ相手を縛り付けることはない。

輝夜も以前は来る者拒まずだったため、一気に血の気が引いた柚葉は、話もそこそこに切り上げて慌ただしく立ち上がった。


「お話の途中すみません主さま。私ちょっと鬼灯様の所に行って来てもいいですか?」


「ん、ちゃんとふたりで話をするといい」


矢の如く居間から去って行った柚葉を見てにやりと笑った朔の頭をぺしっと叩いた凶姫は、隣に座って袖をつんと引いた。


「あの作戦で大丈夫なの?」


「お前は同じ立場だったらどうする?」


「今すぐ会いに行くわ。今すぐ問い質すわ。今すぐお嫁さんにしてほしいって言うわ」


「俺の狙いもそれ」


うまくいけばいい――

朔の考えた作戦は、実を結ぶことになるのだろうか――?
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