宵の朔に-主さまの気まぐれ-
祝言を明日に控えて、急に落ち着きを取り戻した凶姫が暁をあやしている様子を朔はじっと見ていた。

妻を迎える――

いつかは当主として妻を娶らなければいけないと分かっていたものの、あまり実感はなかった。

古来より続く名家として、鬼族の中から選ばなければいけないことは誰に言われるでもなく分かっていたし、だからといって人と縁を結んだ父をどうこう言うつもりも全くない。

この身には人と鬼の両方の血が流れている――

だからこそ成し遂げられるものもきっとある。


「朔?どうしたの?」


「ん、いいや、美人で可愛い嫁を貰うことができて幸せだなあって思ってた」


かっと顔が赤くなった凶姫がまた可愛らしく、女をそう思える自分自身がなんだかこそばゆくなって、はにかんだ。

母のような女を嫁に貰うのだろうと漠然と思っていたが、そうではなかった。

気が強くつっけんどんだが、突き放すと不安になってすぐ袖を握ってくるような両極端な二面性を持った女――

母のような女を嫁に貰うのは輝夜の方で、凶姫と柚葉…このふたりが親友であることもなんだかおかしく思えて口元が緩むのを手で隠して笑った。


「な…何よ急に…」


「実は嫁なんか貰わないんじゃないかと思ってたから。貰ったとしても義務であって、惚れて一緒になる女なんて現れないんじゃないかと思ってたんだ。だから俺は幸せ者だなあって思ってた」


「ふ…ふうん……。わ、私だって…あなたみたいな女を選び放題の男に見初められるなんて思ってもなかったわよ。ある意味‟渡り”のおかげかしらね」


朔は手を伸ばして凶姫を抱き寄せて膝に乗せると、暁がにこにこしながら見上げてきてまた頬を緩めた。


「血を繋ぐ…魂を繋ぐ…何が何でも子を作って栄えなければならないうちに嫁に来てくれてありがとう。改めて言うけど、本当に俺の嫁になってくれるんだな?やっぱりやめた、は許さないぞ」


耳元で息を吹きかけられてぞくりとした凶姫は、暁をぎゅっと抱きしめながら頷いた。


「こちらこそ、私みたいな強気な女をお嫁さんにしてくれて…ありがとう。一生あなたについて行きます」


あたたかな日差しが降り注いで春の到来が近付く青空を三人で見上げた。


この人を選んでよかった――

魂が強く強く、繋がり合う。

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