宵の朔に-主さまの気まぐれ-
さすがに祝言の日は百鬼夜行は行われないと聞いて喜んだ凶姫は、こんもり着こんで縁側に出て柚葉と一緒に雪が止んでしんと静まり返った星の輝く夜空を楽しんでいた。


「百鬼夜行がない時って、祝言の時かよっぽどの緊急時だけなんですって」


「お勤めですものね。一度鬼灯様について行きたいって言ったら、血生臭いからやめた方がいいって言われました。鬼灯様は優しい方だから、いくら悪人といえど手にかけるのは心苦しいはずなのに」


「朔を信じているからよ。そして人を脅かす輩を許せないからよ。弱音を吐くこともきっとあるでしょうから、あなたが癒してあげないとね」


「そうですね…」


ふと柚葉の横顔を見つめた凶姫は、小さな違和感を覚えて柚葉の頬をつんと突いた。


「なんですか?」


「柚葉…あなた何か隠し事をしてない?」


「えっ!?してません。してませんよ!?な…なんでですか!?」


…図星。

開店したばかりの店の品が一瞬で売り切れたこともあってか、自室に籠もって出てこないことが最近多く、輝夜とこそこそしているような気もする。


「私に話せないことなのね?でもいつかは話してくれるのよね?」


「そう…ですね、はい。もうちょっと待ってて下さい」


小指を絡めて約束をすると、何重ものおくるみに包まれた暁を抱っこした天満がその輪に加わった。

もう目が見えるようになった暁はちゃんと凶姫たちを認識していて、手を伸ばしてきた暁を天満から受け取ると――開き直った。


「祝言が近付いて緊張していたけれど、もう逃げられないのよね。だからもうどんと構えることにするわ」


「そうですよ姫様。女は度胸!」


「あと柚葉、その姫様っていうのはもうやめてちょうだい。私のことは…その…なんていうか…芙蓉…でいいわ」


――柚葉がきょとんとすると、凶姫はものすごく焦って顔を真っ赤にしながら早口でまくし立てた。


「だって私たち同等の立場でしょう!?あなたがその呼び方をやめないつもりなら、私もあなたのことを姫様って呼ぶわよ!?」


「!?い、いえそれは勘弁して下さい!…じゃあ……芙蓉ちゃん?」


「そ、そうね、私の方が年下だったわね。じゃあついでに敬語もやめてちょうだいね」


「ええ…?徐々にでいいですか…?急には無理です…」


天満はふたりのどぎまぎした会話を楽しみながら酒を口に運んだ。


ここではきっと楽しく過ごすことができる。

亡くした妻子の名を小さく空に向けて囁いて、小さく盃を夜空に掲げた。
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