宵の朔に-主さまの気まぐれ-
それから数日をかけて蔵をきれいにした。

なんとも手際のよい雪男の協力もあって、埃臭くて歩けば埃が舞うような状態だった蔵の中は見事にきれいになり、柚葉が見立ててくれた机や灯籠、そして念のため布団なども持ち込んで、さすがに朔に呆れられた。


「布団って要る?」


「なに言ってるのよ、ここは宝の山よ!?ああ私、ここに住みたい…」


「俺は一度全部目を通してるけど、もう一度見ようかな。一緒に」


お気に入りの敷物の上に座って大満足の凶姫は、隣をぽんぽんと叩いて朔を座らせて、疑問に思っていたことを口にした。


「ねえ、代々の当主が書物を書き記してるのよね?あなたも?」


「うん、お前と出会った時のこととか、あと輝夜もことも書いてるから結構長くなってる」


「…え?もう書いてるの?ねえ…それ…見せてもらうわけには…」


「恥ずかしいから駄目。ていうか読むのはいいとしても、大事なのは写しなんだぞ。できるのか?」


「できるわよっ。一冊全部読んだ後、ちゃんと写しを取るわよ。私、字はきれいなんだから」


蔵の中を殺菌して清潔になったため、朔の腕には暁も抱かれていて、初代が書き記した書物をゆっくり机の上に置いた。


「一応崩れないように術はかけてあるけど乱暴に扱わないように。さあ、読もうか」


――ふたり同じ速度で読み進めていった。

顔を赤くしたり青くしたり忙しない凶姫の表情を楽しみながら読んでいると、蔵の外から輝夜の声が聞こえた。


「兄さん狡いじゃないですか。私も中に入って読みたいな」


「駄目だ、当主しか許されてないからな。後で芙蓉に話を聞くといい」


「ふんだ、分かりましたよ。後で差し入れを持って行きますね」


輝夜が去った後、凶姫は肩で朔の肩を軽く押して机に頬杖をついた。


「私たちだけの場所って感じでいいわね」


「うん、ふたりきりになりたい時はここに来よう」


「ひとまずしばらくは籠もり切りになるから、私に会いたい時はここへ来てね」


呆れた朔が肩を竦めると、凶姫は再び書物に目を戻して熟読。


「俺を放置する女はお前くらいなものだな」


腕の中ですやすや眠る暁と、青くなったり赤くなったりしている凶姫を見るのが楽しくてつい見ていると百鬼夜行の時間になり、雪男にこっぴどく怒られた。

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