宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔が無邪気になれる相手というものは貴重だ。

親しくなれば口調も変わるし見せる表情も違う。
人見知りするわけではないが、それは側から見ていて如実にわかる。


この人物は朔に気に入られたのだとーー


「頼むから俺を人身御供にすんのやめて…。あちこち触られてなんかもう汚された気分…」


「たまに会う時位お祖母様の遊びに付き合ってやれ」


「主さまはいいよな、お気に入りと楽しく遊んでてさ。その時俺がどんな目に…」


「俺にお気に入りなんか居たか?」




……こいつ本気で言ってんのか?という顔をあからさまにしてしまった雪男に対して朔が寝転んで青空を見上げながら自問自答していた。


「そうだな…会いたいから会いに行く。話していると楽しいしな。お気に入りか…間違ってはいないな」


うんうんと頷いている朔に雪男がじわりとにじり寄る。


「寵愛するのか?」


「ははっ、そんな重たいものじゃない。とにかくもうすぐで一週間経つから話が聞ける」


「ちゃんと立場を明かすんだぞ。あの手の女は隠し事すると激怒するからな」


「元遊び人の言葉はやっぱり重たいなあ」


ーー地獄耳の朧が繕い物をしながらぴくりと肩を揺らすと、雪男がさっと立ち上がって言い訳しながらその場から居なくなる。


「兄様、その方はお美しいんですか?」


「うん、かなりね。あくまで俺の意見だけど」


「ふうん…ふふふ」


「なんなのその笑い方は」


「いいえ、なんでも」


含み笑いをした朧の膝枕にあやかりつつ凶姫との短くも楽しい語らいを思い浮かべる。


どんな事情であっても救ってやりたい、と思った。
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