宵の朔に-主さまの気まぐれ-
夕餉を皆で食べた後、庭には続々と百鬼たちが集結し始めていた。

そして皆が皆――凶姫と柚葉を交互に見てひそひそと声を潜めてそれを予想し合っていた。


「女がふたり居るぞ。ふたりとも嫁候補か?」


「いや候補じゃなくてふたりとも嫁にするんじゃないか?」


「しかし対照的だ。妖艶な女と可愛らしい女…」


「おいお前たち。聞こえてるぞ」


朔ににっこり笑いかけられて引きつった笑みを浮かべながらそそくさとその場から居なくなる百鬼に肩を竦めた朔は、茫然としている凶姫の隣に座って顔を覗き込んだ。


「どうした?」


「い、いえ…こんな間近に百鬼夜行を行く者たちを見ることがなかったから…。皆あなたの下僕なんでしょ?」


「下僕じゃなくて仲間。信念を同じくする者たちだ。俺は朝まで戻って来ないけど、雪男がお前たちを守るから心配するな」


「ああ、彼ね。うん、いいわよ、あの色男さんに守られるなんて役得だわ」


その言い方に何だか少しむっとした朔は、以前ここに滞在したことがある柚葉が何度も百鬼夜行を見てきて落ち着いて座っているのを見て今度は少しほっとした。


「柚葉、屋敷の勝手は分かっていると思うがあまり出歩かないように」


「はい、分かっています。勝手な真似はしませんから」


「ん。体調はどうだ?」


「少し疲れはありますが気疲れが大半ですから。主さま、お気をつけて」


「うん」


――何だかふたりが仲睦まじく見えた凶姫が今度はむっとして二人から顔を逸らすと、その先には息吹が居て何故かにこにこしていて首を傾げた。


「なん…ですか?」


「ううん、なんでも。ふふふ」


今度は息吹が地図を見ていた雪男ににこにこ笑いかけて耳打ちをした。


「ねえ、朔ちゃんはどっちが好きなのかな」


「うーん…どっちともかもしんないな」


「やっぱり十六夜さんに似ちゃったのかな」


「ははは、まあ当主は嫁さん何人居てもいいし。お前たちや先々代が変わってるだけで普通だろ」


「そっかあ。どっちとも平等に愛してあげられるのならいっか」


朔が皆に声をかけて百鬼夜行が空を行く。

凶姫と柚葉は夜空を見上げて彼らを見送り、無事を祈った。
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