リボンと王子様
「蘭にはほぼ毎日会っているのに、千歳くんには全然会っていなかったね」

「ああ、そっか。
舞花ちゃんと蘭は同じ大学だったね」

「うん。
今日も午後から蘭と樹と約束してるの。
千歳くんに会ったって言ったらきっと驚くよ」


屈託なく笑う舞花。


「俺も蘭にはしばらく会っていないなぁ……用があるときは電話するけど……」

「それ、樹も言ってたよ。
瑞希くんには最近会っていないって、あ、でもこれからは会えるのかな?」

「……え?」


微妙な千歳さんの表情の変化に、しまった、と言わんばかりに舞花が慌てる。


「あっ、あのね。
昨日ここに来た時、偶然瑞希くんに会ったの……それで帰国してるって知って……!」

「そう、俺も会ったよ。
……元気そうだった」


既に先刻と変わらない、穏やかな微笑みを浮かべている千歳さん。

部屋はエアコンで快適な温度に保たれているのに、私の背中を冷たい汗がつたう。

そんな私の様子を知ってか知らずか、千歳さんは急に畏まって舞花に向き直った。


「舞花ちゃん、これからも宜しくね。
穂花のこと、大切にするから」

「……千歳さん……」


その言葉にハッとして千歳さんを見つめた。

千歳さんは漆黒の瞳を優しく眇めて私の頬を、綺麗な指でそっと撫でた。


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