キミの生きる世界が、優しいヒカリで溢れますように。
そして私にゆっくりと近づき、目線を合わせるように跪く彼。
手をジャケットのなかに忍ばせて、私の目の前で黒いステッキを取り出した。
なんの変哲も無いそのステッキをくるくると回し、私にアピールする。
そして彼がそのステッキの先端を指で撫で、息を吹きかける。その一瞬で現れたのは、カラフルな花束だった。
目の前に突然出現したそれに目を見開かせる。差し出された花束を受け取ると同時になぜか私の両目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「わっ、ごめん、驚かせちゃった⁉︎」
「いや、ちがくて……っ」
なんでこんなに涙が出るのか、自分でもわからなかった。だけどどこか懐かしくて、愛しくて、温かい気持ちになる。
彼のマジックには、そんなチカラがある。
「僕、たくさんの人を笑顔にするためにマジシャンになりたいんだ」
「……っ……」
「だから次は絶対、きみを笑わせてみせるね。約束」
小指を突き立てて、首をかしげる仕草。私は涙を拭ってその小指に自分の小指を絡ませた。
──太陽が、目の前にいる。
ふと、そんなことを思った。
優しい太陽の光に満ちたこの広場、この世界。
辛いことがたくさんあった。死にたくなった瞬間が幾度もあった。未来に希望なんて持てなかった。死にたくて死にたくて、自分のことも、この世界のことも恨んできた。これからもきっと、絶望はやってくる。
だけど、私は生きていく。もう死にたいだなんて、思わない。
強く、強く。私は生きて、生きて、生きて、いく。
「きみの、名前は?」
「……新垣ゆり。あなたは?」
名乗ると、目の前の彼が驚いたように目を見開かせた。
そして、詰まらせるように短く息を吐いた彼と目があった。それはまるで、誰かを慈しむかのような優しくて穏やかな目だった。
「……僕は、酒井隼人だよ。きみを、ずっと探してた気がする」
「え?」
……新しい私の人生が、いま、はじまる。
【fin.】